ひろった

いつも行く図書館には、「ご自由にお持ち帰りください」のコーナーがあって、行くたび覗いている。
先日、『死の淵より』という詩集(の普及版)をそこで拾った。高見順の作。
はじめて読んだ詩集だ、これは。小学生の時。二年生だった。母が渡してくれたのだ。どういうきっかけだったんだろう。国語の宿題?
ただ不気味で怖いばかり。だってこんなんだよ。

カメラマンはベッドで死んでいたのだ
死と同時に集まってきたのは
枝に鈴なりのカラスだけではなかった
アリもまたえんえんたる列を作って
地面から壁をのぼり三階の窓から部屋に忍びこみ
床からベッドに這いあがり
死んだカメラマンの眼をめがけて
アリの大群が殺到していた

あるいはこんなの。

突堤
しぶきの白くあがる尖端の
灰色のコンクリートにこびりついた
アミーバ状の血

「血」。「こびりついた」「血」。

いつ見てもしまっていた枝折戸が草ぼうぼう
のなかに開かれている 屍臭がする

この二行で全部。とても冷えてる。きっと夕方。「草ぼうぼう」で切れているのがいい。きっと夕方。「の」の字がいつものと違う、なにかを呼ぶ。