佐伯先生と私 4

「…まだまだ、たのしいことは、いっぱいあるのです。死んでいるばあいでは、ありませんでした…」
「そう。…」
佐伯は応えた。ぶっきらぼうに。できるだけ、表情に出さないように。
空き教室はカーテンを閉めきって、電気も消していた。彼女の表情は佐伯から見えない。それでも、(笑っている…)ということはわかった。(こんなに機嫌が良いのは、久しぶりじゃないだろうか)。
二人はしばらく黙る。
「冬休みに、どんなことがあった?」
「…両親と、話しました」
「へえ」
信じられなかった。あんなに憎いと言っていたのに。恨んでいると、あんなに言っていたのに。
「先生、わたし、もうすこし、もうすこし、がんばってみますね…」
「ああ」何かあったら、いつでもつき合うから。
「…」ありがとう。
沈黙。放課後の音が聞こえる。彼女は、閉め切った窓の向こうを見つめる。
佐伯は立って、教室を出た。