偶然

峰の雪も まだふる年の 空ながら かたへ霞める 春の通路

馬場あき子『式子内親王』を読んでいたらこの歌に出くわした。私が持っているのは古本屋で購入した紀伊国屋新書版だが、こちらは絶版で(そもそも、紀伊国屋新書がもう無い)いまだとちくま学芸文庫で読める。生涯と歌から内親王像を浮かび上がらせていく二部構成。

式子内親王 (ちくま学芸文庫)

式子内親王 (ちくま学芸文庫)

さて、歌に戻る。これをみたとき、「空……かたへ……通路」がなんかひっかかった。どこかで見た気がする。きっと本歌があるだろうと思って調べたら、あった。

夏と秋と ゆきかふ空の 通路は かたへすずしき 風や吹くらむ

資料によれば古今集夏の歌だそうである。訳せば「夏と秋が入れ替わる空の道では、片側だけ涼しい風が吹いているのであろう」というところか。のびやかでほほえましい想像。
どこにこの歌が載ってるかはわかったが、作者がわからない。そこで、別の資料で確かめることにした。これまた古本屋で入手した『古今和歌集』だ。初句索引を見ると、「なつとあきと」の上に赤いボールペンで印がつけてあった。前の持ち主も、この本でこの歌を探していたのだ。まさか、「峰の雪」の本歌として…?

なんてことはきっとなかろうが、ちょっと面白かった。(ある程度なら)書き込みも楽しめるもので、そこが古本の魅力だと思う。
(私は本には絶対に書き込まないけど)