あれとかあれとかの話

放課後。俺は友人と教室にいた。
「…ああ、あれだろ」
友人は言った。


友人は言った。「あれだろ、なんだか、主人公の周りが、不安な人たちばっかりな」
「不安な人?」
友人は額を指でたたき始めた。考え込むときの癖だ。
「なんというか、頭のゆるい、というか…精神に障害がありそうな?」
「おいおい」
とは言ったものの、あれの作者には、確かにそんなキャラ造型が多い。見知らぬ男をいきなり家に泊めたり、熱が出るたび幼くなったり、夜な夜な自分にしか見えないものと戦ったり…。思ってたよりキビしいな。もし自分の周りが、そんなのばっかりだったら、一度じっくり考えてみる必要があるだろう。
「実はすごい遠回しな作者の悪意なのかもしれない」
「なんだよそれ」
「つまり、作者は、こういいたいのさ『こんな子じゃないと、つきあうどころか話すことすらできないんだろ、おまえら。そんなおまえらのために、せめて物語の中くらい、幸せな結末を見せてやるよ』」
「そんなまさか」
「これを否定できる人は、そもそもあの人の作品を読んだりしない。読んで、はまった時点で言い逃れはできない」
悪意を読み取るのは、友人の得意技だった。その気になれば、どこからでも、何者かの悪意を感じ取れる。サスペンスものの昼ドラが友人の大好物だ。
「考えすぎだ。読者はリアルとファンタジーの区別のつかない人ばかりじゃないだろう。それはそれとして楽しむ人の方が多いと思う」
「どうかね…」


「おまたせ〜」
とてもゆるい声がドアの方から聞こえてきた。春が来た、と思った。まだ2月だが。
「遅いぞ、もなみ」
友人が応えた。同じ学年の女の子が、こっちへ近づいてくる。そういえば、最近彼女ができたと、言っていた気がする。奇跡だな、と返したら、カバンから、カップのアイスを取り出して投げつけてきた。
「うにー、掃除してたら、いつのまにかみんないなくなってて、ひとりで全部やらなきゃいけなかったんだよ〜」
「またか」
「まりー・せれすと号事件だよ〜。不思議事件だよ〜」
「絶対違うからな」
「うに、とにかく、部室行こう、部室。れっつ・ご〜」
二人は教室を出ていった。俺はわけがわからなくなった。少し、いやじっくり考えてみた方がいいのかもしれない…。